2022 園長のブログ「探究的環境の中で」
新型コロナの影響で園行事も大幅な変更を余儀なくされた2年間でしたが、子どもたちの「日常」はどうだったのでしょうか。昨年度末、教師がつづったプログレスレポート(成長報告書)には楽しい遊びと学びの様子が生き生きと描写されています。ここでは昨年度(2021年度)の年長児のレポートを一部紹介します。
※名前はアルファベットで標記し、( )内に子どもたちが示した国際バカロレア(IB)の学習者像を記しています。
A(男児) 6月のある日、担任に『絵本を読んでいいですか?』という手紙が届いた。人前に立つ事が苦手だった本人から「クラスの前で“読み聞かせ”をしたい」という申し出を受け、驚いた。
最初の機会では、緊張のあまり「やっぱりやめた」と途中で諦め、やめてしまった。2日後「やっぱりやりたい」と言ってきたので、再び機会を与えた。しかし、絵本が次第に自分の方へ向いてしまい、友だちから「見えない」「声が聞きづらい」と言われてしまった。その2日後にまた絵本を持ってきたので、3度目の機会を作った。その時は、本をみんなに向け、ゆっくりとした口調、絵を指し示す仕草も加わり、自ら考えた工夫と目覚ましい上達が見られた。
その後、担任が知らない間に隣のクラスの担任へも同じ手紙を出していたことが分かり、自主性が大きく育っていた。回を重ねる毎に、どうすればよりよくなるかを考え、実行し、表現できた喜びを感じていたと思う。
(Courageous・勇気のある人/Inquirers・探究する人/Principled:信念を持つ人)
B(女児) 源流探検は、ビデオで予習していたが、現地に着いても「怖い」という不安感が消えなかった。すると、一人の男の子が「僕が一緒だから大丈夫」と手を繋いでくれた。おかげで安心して入水することができ、勇気をもって岩を登りきることができた。
途中、同じグループ内で助けを必要としている友だちがいると今度は自分からその子の手をとり、一緒にゴールしていた。親切にしてもらったうれしさを感じ、すぐにその気持ちを他の人に向けようとした心情が素晴らしく、驚かされた。
(Caring・思いやりのある人/Reflective・振り返りができる人)
C(男児) Where we are in place and timeのユニット活動で、索引を使って図鑑を見る方法を見つけた。日本と世界について調べた事をみんなの前で生き生きと話すことができ、知識をもつことの喜びを感じていたと思う。この活動の最後に、日本の良いところを尋ねた時、「日本には戦争がない」と発言した。お家で見たテレビのニュース映像を思い出したそうだ。探究テーマの趣旨を理解し考える姿勢が日常的にあったことが分かった。(Knowledgeable:知識のある人/Inquirers・探究する人)
D(女児) 年長の始めに「私は全部のラーナープロファイル(IBの学習者像)の人になりたい」と発言した。その言葉通り、一年間、探究活動、行事、普段の遊び、どの場面でも学習者の姿を発揮してくれたと思う。How we express ourselvesの探究活動で、人には様々な気持ちや感情があることを学んだ。教師が「何で“幸せになる気持ち”って人それぞれ違うんだろうね?」と問うと、「つくし組は22人居て、22個の気持ちがあるからだよ」と答えた。この発言の中に全てのラーナープロファイルを理解し大切にしようとする気持ちが表れていた。
(Principled:信念を持つ人)
これらは特別な事例ではなく、引っ込み思案であったり、友達と衝突して仲良く遊べなかったり、どの子にもある過程を経てきた園児の成長記録です。
私たちは、子ども一人ひとりに異なる学びのきっかけと内容があり、「やりたい」と思うタイミングもそれぞれ違うことを認識しています。
A君の担任は、彼が最初に意欲を示したタイミングを逃すことなく くみ取り、再チャレンジの時も彼の決断を尊重しました。友達も当たり前のように彼が挑む場面に参加しました。隣のクラスの担任も彼に機会を与え、そのクラスの園児も拒むことなく彼の訪問を受け入れたそうです。むしろ、A君のチャレンジ後、絵本の読み聞かせをしたがる子どもが続出したそうです。ちなみに、Bちゃんの手をつないでくれたのもA君だったそうです。一人の子どもの失敗を恐れない行動が他の子どものチャレンジ精神に波及していたのでした。
もう一つ、IBには興味深いガイドラインがあるので紹介します。それは・・・
(大人には)『あり得ない』、『不可能だ』と思えるような方法を子どもが解決策として考え出したり、(大人にとって)意外な物事や考え方を結び付ける時、それを肯定的に受け止めなさい・・・・というものです。かつては「あり得ない」と思われていた技術や知識を今の私たちが享受しているように、子どもたちが大人になる20年先にどんな情報や技術があり、何が課題になっているかは、今知る由もないのです。子どもの自由な発想を今ある常識で否定したら、子どもは考えることをやめてしまう。それこそ将来の可能性を損失することであるというのです。
実際、源流探検の前に、「源流にはサメやイルカがいるかもしれない」と予想した子どもがいたそうです。教師はそれを大切な発言としてホワイトボードに板書しました。他の子どもたちは、その教師の態度を見て、自分の考えを口々に発言することが出来ました。
「希望を言える」、「試す機会が与えられる」、「失敗も肯定的に受け止めてもらえる」、子どもがそう感じる環境が「探究的な環境」です。そのような環境に居ることが、いかに子供の能力を伸ばすかがお分かりいただけると思います。私たちが、生徒主体の探究的な日常を重視するIB教育に移行した理由がそこにあります。
以下は2021年度末の年長児の展示会風景です。